現在、生ごみをはじめとする様々な有機性廃棄物の多くは、焼却処理によって処分されています。メタン発酵は嫌気性微生物群を用いて有機性廃棄物をメタンガスに変換する処理方法です。メタン発酵処理は消費エネルギーが少なく、メタンガスはエネルギーに変換できるため、低エネルギー・創エネルギー処理として注目されています。また、メタン発酵残渣(消化液)には植物の成長に欠かせない栄養塩類が豊富に含まれていることから、消化液の有効利用も期待されています。当研究室では、メタン発酵効率の向上や消化液の有効利用法など様々な研究を行っています。
日本において、生ごみなどの有機性固形廃棄物の年間排出量は約 2000 万トンにものぼり、その処理方法が問題となっています。メタン発酵は、エネルギー利用可能なメタンガスの生成を伴う、有機性廃棄物の創エネルギー処理として注目されています。特に湿式メタン発酵処理は、生ごみのような固形物を含んだ有機性廃棄物の直接投入が可能なことから、本処理法の高度化・高機能化は、重要な研究テーマとなります。
湿式メタン発酵は、加水分解、酸生成、メタン生成等の各種プロセスに、様々な微生物群が関与しており、安定した処理の実施には、安定した菌体濃度を維持する必要があります。本研究グループでは、排出汚泥から嫌気性微生物を含む固形分のみをリアクターに返送するプロセスを実施することで、従来のメタン発酵槽の約 2 ~ 5 倍である高有機物負荷条件で高いメタン生成量を達成しました(右図;Nagaoet al.,2012)。さらに同研究において基質供給を一時的に止める休止期間を設けることで菌体数が大幅に増加することが明らかとなりました。現在は、休止期間における菌体増加のメカニズムを解明するために、菌体の増加と消化液成分の変化の関係を明らかにする研究を行っています。
近年、人口増加に伴う富栄養化等から、世界各地で海産性の藻類が大量発生し、それらが浜辺等に漂着することで悪臭や景観を損ねる等の環境問題を引き起こしています。これら漂着性廃棄物は、含水率が高く、焼却にコスト等がかかるため、その処理が問題となっています。漂着海藻を含む水生バイオマスは、有機物分を多く含みバイオマスエネルギーとしての炭素を多く含みますが、セルロース等の難分解性物質を多く含むことから、メタン発酵等の生物学的な処理においては、分解率の低下(バイオガス回収効率の低下)が課題となっています。分解率を増加させるには、メタン発酵において活躍する微生物の基質利用性を向上させる必要があります。そこで、水生バイオマスを細かく破砕する前処理を行い、エネルギー回収効率を増加させる研究を行っています。
また藻類バイオマスは、廃棄物処理の重要性だけでなく、その生産性の高さから、有用物質の生産や生産型のバイオマスエネルギーとして注目されています。植物プランクトンの Chlorella zofingiensis は、細胞増殖速度が高く、特に商業価値の高い有用物質アスタキサンチンを細胞内に蓄積する緑藻類です。このように工業的にも有用な種である植物プランクトンの効率的な培養方法の確立は、有用物質の生産、エネルギー生産の両面から、非常に重要であるといえます。そこで、当研究室では、植物プランクトンの効率的な培養手法についても研究を実施しています。
上向流嫌気性スラッジブランケット(UASB)法は、エネルギー回収可能なメタンガスの生成を伴う効率的な中・高濃度汚水処理法で、その実用性の高さから 1980 年代以降世界各地で広く用いられています。UASB 法では、メタン発酵に関与する微生物群が自己造粒し、0.5 ~ 2.0mm の「グラニュール」と呼ばれる汚泥を反応槽内に形成させることが出来ます。このグラニュールは沈降性に優れており、微生物を高濃度で保持出来るため、高負荷での運転が可能です。
UASB 法は、有機性廃水のような固形分が少ないものの処理には適していますが、生ごみのような有機性固形物の処理には適していません。そこで、生ごみを可溶化させ、固形物濃度が低い廃水にした後、UASB 法で処理するとともに、メタンガスを回収することを目的とした研究を行っています。また、生ごみ廃水の処理に適したグラニュールの形成を目的に、生ごみ廃水を用いた消化汚泥からのグラニュール形成の研究も行っています。さらに、海に囲まれた我が国では、海産水産加工工場などから高塩分濃度の排水が排出されています。そこで、グラニュールの塩分耐性についても研究を行ってきました。
わが国では約 78%の廃棄物が焼却処理を行った後、埋め立てられています。その一方で、インドネシアをはじめとする開発途上国を含む世界の多くの国では、主に直接埋立によって処理が行われています。特に開発途上国では、分別を行わないところが多く、産業廃棄物や都市ごみなどが、そのまま埋立地に投棄されます。埋立地からは、投棄された廃棄物に含まれる有機物が埋立地内で生物分解され、メタンガスや二酸化炭素などの温室効果ガスが排出されています。さらに埋立地に降り注ぐ降雨が浸透し、廃棄物成分が溶解した汚水(浸出水)が発生します。開発途上国における埋立地のほとんどは、ガス回収設備、止水設備、浸出水処理施設などがないことから、これらが引き起す温暖化促進や地下水・海洋汚染などが問題となっています。
本学では、2004 年からインドネシア・スラバヤ工科大学と共同研究を行っており、当研究室では、開発途上国でも行える低コストな浸出水処理を検討することを目的に、スラバヤ市のベノウォ埋立地から排出される浸出水の化学的性質の調査、その効果的処理法の検討等を行っています。
LCA(Life Cycle Assessment)とは、製品やあるシステムが生産、使用、廃棄される全行程(ライフサイクル)を通じて環境へ及ぼす影響を定量的に評価する手法です。この手法を廃棄物処理プロセスの環境への影響評価に用いることにより、より環境負荷の低い適切な処理方法の提案や最適な処理プロセスの特定が可能となります。わが国では、一般廃棄物の約 80%が焼却処理され、有機性廃棄物である食品廃棄物の資源化率は約 9%に留まっています。このような現状の中、食品リサイクル法(平成 13 年制定、平成 19 年度改正)が施行され、食品廃棄物の再生利用を推進する「食品ループ」の認定制度が設けられました。これは、地域社会の食品廃棄物を回収し、堆肥化や飼料化等の処理を行った後、リサイクル肥飼料等を使用して生産された製品を食品関連事業者が引き取ることで、地産地消を推進する食品リサイクル事業です。食品廃棄物の再生利用を普及させるだけでなく、低炭素社会の実現をも図るためには、LCA のような総合的な評価手法を用い、より環境負荷の少ない処理法の選定・システムの構築が必要となります。
本研究では現在、この食品ループに焦点を当てて、食品廃棄物処理の環境影響評価と経済評価を行っています。これらによって、食品ループの環境影響を総合的に評価し、その利点や問題点等を抽出するを目的としています。
下の図は、昨年度に実施した研究の結果になります。稼働中の食品リサイクル施設を対象に LCA による比較研究を行った結果、最も環境負荷の少ない処理技術が明らかとなりました。この研究発表は、第 19 回廃棄物学会年会で優秀ポスター賞を受賞しました。
食品廃棄物処理施設の各シナリオ(処理法)におけるごみ 1 トン処理当たりの CO2排出量を表している。高度化乾式メタン発酵処理、コンポスト化処理、簡易湿式メタン発酵処理の順に、CO2削減効果が高いことが分かる。
微細藻類は、二酸化炭素の固定速度が陸上植物と比較して高く、同時に、有機汚水に含まれる窒素やリンといった栄養成分を吸収・処理しながらバイオマス回収することができます。さらに、微細藻類は固定した二酸化炭素を用いて細胞内に脂肪酸、タンパク質およびカロテノイド色素などの有価物を蓄積することから、医薬品や化粧品、健康食品や動物飼料などへの応用も期待されています。現在、当研究室では微細藻類を用いた様々な研究を行っています。
好気性バクテリアを利用する活性汚泥法は代表的な汚水処理法ですが、酸素供給のために膨大な曝気エネルギーがかかること、ならびに栄養塩除去のために化学薬剤の添加が必要であることが問題となっています。1957 年に Oswald らによって好気性バクテリアに加えて微細藻類を同時に利用する微細藻類・バクテリア共存系による処理法が提唱されました。この汚水処理法では、微細藻類の光合成によって生産される酸素を用いてバクテリアが汚水中の有機物を除去し、バクテリアによって排出される二酸化炭素を用いて微細藻類が汚水中の栄養塩を除去します。そのため、曝気や化学薬剤の添加を必要とせずに有機物と栄養塩の同時除去が可能であり、低コスト・低エネルギーな汚水処理法として注目されています。本研究室では、容積 1.2m3のオープンポンド型微細藻類・バクテリア培養槽(High rate algal pond: HRAP)を用いた高濃度有機性汚水の処理や、微細藻類・バクテリア共存系を用いたビスフェノール A の処理などの研究を行っています。
微細藻類 Chlorella zofingiensis は、有用物質として近年注目されているアスタキサンチンを細胞内に蓄積することで知られる単細胞緑藻類です。C. zofingiensisは、細胞内に蓄積されるアスタキサンチン含量はHaematococcus pluvialisに劣りますが、増殖速度が高いため、C. zofingiensisの大量培養法が確立することによって、有用物質の生産は従来よりも飛躍的に増加することが期待されています。
一般的な微細藻類の培養法では、細胞密度が過度に上昇すると、光制限(セルフシェーディング)を引き起こし、光照射量が減少して増殖速度が低下することが問題となっています。そこで本研究では、光制限を可能な限り回避し、光エネルギーを効率的に利用することが出来るチューブ状のフォトバイオリアクターを用い、さらに炭酸ガスや栄養塩の供給量を制御することによって、C. zofingiensisの高密度培養を試みる研究を行っています。