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近年、日本各地の陸水域では水草の大量繁茂による環境悪化が懸念されています。例えば、琵琶湖では水草の分布が南湖の90%以上を覆っており、社会・経済にわたる複合的環境問題(漁業活動への影響、周辺住民への悪臭被害、景観悪化によるツーリズムへの影響など)を引き起こしています。琵琶湖では国及び自治体の環境政策として緊急な対処が必要とされており、環境省の「湖沼水質保全計画」ならびに滋賀県の「マザーレイク21計画」において、「水草の除去および繁茂抑制方法の検討」が掲げられています。
現在、水草は主に湖底泥と共に根こそぎ除去されていますが、これが底泥からのヒ素等重金属の溶出を促進する可能性が懸念されています。また一方で、水草は水質浄化や魚類の産卵場などの役割を担っているため、生態系保全の観点から、健全な湖沼生態系には適度な水草の繁茂が必要と考えられます。そこで本プロジェクトでは、これら水草の持つ生態学的機能を明確にするためにメソコズム実験区を設定し、水草の除去が生物群集、水質、底質に与える影響を明らかにし、水草の持続可能な管理基準を策定します。
除去された水草については、過去には肥料として農地利用されていましたが、現在では利用先がなく、主に焼却処理されています。水草バイオマスの再資源化についてはバイオエタノール化が検討されてきましたが、エネルギー回収効率や費用の観点から未だ社会実装化には至っていません。最も安価な処理方法はメタン発酵によるバイオガス化であると考えられますが、これまでは基質中の炭素分からのエネルギー回収のみが注目されてきました。そこで本プロジェクトでは、バイオガス化の高効率化に加えてN、P、Kなどの栄養塩を積極的に循環利用し、豊富に栄養塩を含む液分残渣を微細藻類の培養に有効活用する基盤技術を確立することを目的としています。即ち、湖沼生態系の保全と水草バイオマスの利活用を両立させることで水草問題の解決を目指します。